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2007.11.18(Sun)

お茶濁し:水猫のとある日 

「さて、君。ルサンチマンというものを知っているかね」
足元をくすぐる隙間風と、密封されたペットボトルの中のような、じめじめとした
湿気に包まれた部屋。
蚊の鳴くような音を立てながら光る電灯にぼかされながら、この部屋で唯一外の様子を
伺うことのできる小さな小窓が、部屋の真ん中で椅子に座っている僕にはよく見えた。
「ルサンチマン、ですか?大学の講義で聞いたことのあるような無いような」
少し前まで通っていた大学。そこで取っていた心理学の講義の内容をかすかに思い出し
ながら、僕はくぅっと首を捻った。
「ルサンチマンというのはね、デンマークのとある思想家が確立した、哲学上の概念さ」
僕ははぁそうですかと短く呟き、自分の正面に座り少し得意気な顔をしている人物の顔を、この
部屋に入った時と同じに、まじまじと見つめた。
首筋で短く切りそろえられた赤い髪、こちらの真意を見透かすように見つめる切れ長の目、愉快そうに右端を吊り上げている唇には、一見乱暴そうに塗られた真紅の口紅が光を反射している。
「本来弱者とは、強者のことを恨んでいるものだ。たとえ全く闘争心が無いように見える人物
 も、それが弱者であれば、いつかは自身の弱さに絶望し、強者に嫉妬する日がくる。
 ルサンチマンとは、その弱者による強者への嫉妬そのものを指す言葉なんだよ」
「つまり、弱い者が抱く強い物への嫉妬心……弱者である現実への不満ですか?」
「鋭いね。つまるところそういうことだ」
赤髪の女性は、何が楽しいのかニタニタと笑いなが、身を乗り出して僕と話を続けた。
しかし当の僕は一体この会話になんの意味があるんだろうということに頭を働かすのが忙しくて、とても楽しくおしゃべりをしている気にはなれない。
「それで……あの、そのルサンチマンが一体なんだっていうんですか?」
あまりに要領をえない会話に、さすがに自分のしびれが切れてきた僕は、目の前の女性にできる
かぎりの強気な態度で聞いた。
女性は呆れるようにため息をして、椅子の背もたれへとよりかかりながら腕を組んだ。
「ルサンチマンとはね、拘束された者の感情なわけだよ、身動きの取れない、どうしようもない、
 そんな救いの無い弱者の感情なんだよ。しかしね、私は思う。ルサンチマンは、人間の動力源とはなりえるのではないか。身動きの取れない弱者は、その内に秘めるルサンチマンとニヒリズムにより、
 ある種の『行動』をとることができるのではないか、とね」
女性は話についていけない僕を気にする風もなく、早口でそう言った。
そして思わず「どういう意味ですか?」質問しようとしたその口を、女性は真っ白な指で
そっと押さえた。
「どうやら君はずい分と鈍感な人みたいだからね。この際、はっきりと言おう」
女性は椅子をかたりと鳴らしながら立ち上がり、そのまま顔をキスができそうな距離まで
近づけた。
「君こそ今、その『行動』がおこせる人間だと思うのだがね」
久方ぶりに冷えた鉄格子から出たその日、僕は不思議な女性と出会った。
不思議な不思議な、魔女と出会った。
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