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2008.03.14(Fri)

fate×空の境界SS 第二話 

第二話:橙子

束の間の、静寂があった。
生ぬるい風がオレの肌をくすぐり、通り抜けていく。その風は、たった一瞬にも関わらず大量に吹き出したオレの汗を冷やすには少しばかりぬるすぎる風だった。
住宅街にある狭い道路。当然ながらその通りにはたくさんの家が立ち並んでいる。
夕方の最も騒がしく、しかしそれは言い方を変えると賑やかで温かみのある景色は。
一切の音もなく。通る人もおらず。正に無の空間。それは今、オレの眼前にいる人間が作り出した世界だった。
タバコを咥え、手にはトランクケース。水色がかった頭髪と、挑発的な鋭い目つきは見るものを威圧する。
そんな女性が作り出した、彼女の世界がここにはあった。
一瞬が過ぎた。いや、正確にはオレの脳から大量に噴出されたアドレナリンが作り出した
幻想の時間は、まるでさっき吹いたぬるい風のように、消えていった。

体の神経全てが引き絞られるような痛みが走る。
これは恐らく魔術回路を開いたせいなのだと、すぐにわかった。
なんせ、オレはさっき反射的に自分の中のスイッチを、撃鉄のイメージを持つ魔術回路を
叩きつけるように開いたのだから。
それはやはり、バゼットもオレと同じ状態なのだろう。息を荒くして、眼前の化け物と対峙していた。
「おい」
化け物が、口を開く。
「えらく気合が入っているみたいじゃないか。しかし目は怯えた羊みたいな目だ。何、私は個人はそう大した魔術師ではない。魔術回路の数もそこの衛宮君とそう変わらない。いや、少ないくらいか?」
確実に緊張の中にいるオレ達を尻目に、そいつは悠々と言い放った。
ああ、わかってるさ。あんた事態が戦う人間ではないってことぐらい。
しかし、だからこそこの感覚が恐ろしい。
サーヴァントと対峙した時と同じ感覚。背筋が凍るような、あの痺れ。
しかし問題は、その力の元が、パワーソースがわからない。
サーヴァントはその存在自体が圧倒的すぎる凶器だ。存在が剣であり、姿そのものがが畏怖の象徴と言える。
しかし、この女性からはその圧倒的なものが何一つ感じられない。
けれどオレの中の何かが叫ぶ。
「気をつけろ。こいつは何かヤバい物を持っている。絶対に持っている」
そう、オレに訴えかけてくる。
これはきっと、英霊と戦うことで得た経験。命を貸しての戦いから学んだ知識だと、体そのものが告げていた。
それもまた、バゼットと同一のようだった。
「士郎」
唐突に、バゼットはオレに話しかけてきた。すっとその横顔を確認する。
その顔はすでに、戦う人間の顔だった。怯えのない、まるで獣のような瞳を揺らめかせている。
「士郎、私はあの人間を写真やデータでしか確認したことがありません」
元「魔術師の封印指定執行者」である彼女が「写真やデータで確認したことがある」
と言ったということは、暗に、「あの女性は封印指定の魔術師である」と言っていることになる
それに。
「蒼崎……」
この名前だけは、オレも知っていた。
現代科学で到達できる魔術の壁を越えた、『魔法』を操る魔法使い。絶対的な奇跡を操る者。
その数は現在5人と言われるが、それが事実かどうかは定かではない。
いや、永遠に定かにされることは無いだろう。
その奇跡の代行人である魔法使い。内の一人と言われる人物が、蒼崎だった。
このことが何を指すかは、オレにもわかる。
しかしこの人物は魔法使いではない。魔法使いだとしたなら、結界などという『魔術』を使用することは無いだろう。
だが、全く関係が無いというわけでも無いだろう。つまりは、この人物は蒼崎の血縁者である可能性が高い。

「ほぉ。お前、封印指定執行者か」
その青崎という魔術師は、にまりと笑いこちらを見据えた。
「皮肉というか何というか、まさかここで執行者に出会うとは」
クク、とニヒルな笑いを漏らし、魔術師は額に指を置く。
「私は、私はもう執行者ではない」
バゼットが、その強い眼光で青崎を、魔術師を睨んだ。魔術師はふぅんと興味無さげに息をつき、「まぁ・・・どちらでもいいがな」
呟いて、手に持ったトランクケースを、ガタリと落とした。
パクン……と、トランクケースが開かれる
その音は始まりの合図。戦闘の合図。闘争の合図。

瞬間、トランクから黒い「口」が出た。
それはそう、「口」だ。大きく開いた口だけの化け物。ただ真っ黒く大きな口が、蒼崎の正面に現れた。
その敵を一瞬で捕捉すると、バゼットは全身全霊の力を足にこめて、地面を蹴った。
速い。凄まじく速い。まさしく駿足。
元々バゼットは格闘主体の魔術師だ。それも接近戦では一流といえるほどの。
今日は戦闘の準備をしてなかった分若干不利かと思われるが、両腕に嵌めた硬化のルーンを刻んだ手袋だけでも十分すぎる戦闘力を持つ。

ターゲットは魔術師本人だろう。
恐らく、あの口は使い魔の類。これはある程度は予想していた。何せこの蒼崎という魔術師からは戦う人間の雰囲気が無い。その人間が戦闘をするとした場合、使い魔などの自身の戦闘能力と関係しない媒体を使うことは明白だ。
ならばここで使い魔を叩いた所で一切の意味はない。これもまた、オレ達が経験した戦争でも常識であった。
ほんの少しだけ、この使い魔からほんの少しだけの空きを作ればいい。
硬化のルーンを刻み時速80kmで射出されるバゼットの拳ならば、その程度は大して難しいことではないはず。
そう、難しいことではないはずなんだ。
だがオレはゾクリと、寒気を感じた。
いけないバゼット。そいつと正面からぶつかり合ってはいけない。
これはその状況を傍観する第三者だからこそわかること。対峙してはいけないと感じること。
バゼットが青崎の使い魔とぶつかり合う寸前に、何とかオレはそのことに気づくことができた。
そして作り出す。オレの戦う手段。自分が知っている剣を、その場で創り出す。
──────「投影、開始(トレース、オン)――――――――
複製する剣の創造理念を鑑定し、基本となる骨子を想定し、構成した材質を複製し、製作に及ぶ技術を模範し、成長に至る経験に共感し、蓄積された年月を再現する。
それはそう、一瞬でいい。
―――――「投影、終了(トレース、オフ)」―――――
一瞬の時間さえあれば、オレには十分なんだ。

Another aspect

それはそう、一瞬のこと。私は、自分の軽率な行動に後悔していた。
「いける」と思った。
この戦い、勝負は短期決戦が望ましい。なぜなら私が所持する蒼崎橙子の情報はごく少数、
「彼女は魔法使い蒼崎青子の姉であり最高の人形師である」ほとんどこれに尽きる。
後あるとすれば、高い魔術の能力を持つものの、魔術回路や魔力量は少ないということ。
この程度だ。
それに対し向こうが私達の情報をどの程度持っているのかは一切わからない。
士郎の名前を出したということは、士郎の投影魔術のことも知っているかもしれない。
そのようなリスクがあるなら、この戦いは長引かせるわけにはいかないのだ。
恐らくこの使い魔も人形師としての技術で作り出したのだろう。形状から考えて攻撃に特化した使い魔である可能性が高い。ならば、防御自体は薄いはず。
距離は約40m。傾斜などによる不利は一切無し、全くの直線だ。
この程度の距離ならばすぐ詰めることができるし、敵の使い魔に大きな動きは無い。
先手必勝、いける。
私はそう、考えた。しかしそれは大きな間違いであることに気づく。

一息に地面を蹴り、意識が追いつくより早く使い魔との距離を0まで詰めた。
体をえびぞりにして、拳を頭が腹部に着くぐらいに引き絞る。
敵の反応も見られない。絶好のチャンス。
ギリギリまで引き絞った拳を、右フックとして繰り出し、そして口の後部を一撃でしとめる。
確かに、そのはずだった。
「あ……」
まるで霧に腕を通したように、一切の手ごたえがなく、私の拳は空を切った。
私は理解する。そうか、この使い魔は「口」の形をした使い魔ではない。
口という概念そのものなんだと。

目の前には口が迫る。私はただ、あまりにもあっけない自分の終わりに、呆れてしまった。
風を切り裂くような音が、耳に届く。
脳内物質の暴走のためか、機敏になった前身の感覚が、風切り音を追った。
瞳を、瞬時に音の方向へと向ける。目に映ったのは、私の頬のすぐ横を掠めた、一本の黒い短剣だった
その短剣は口の根元、トランク部分に鈍い音を立て突き刺さる。
「っ!?」
少しだけ、蒼崎橙子が動揺したように見えた。
口は私を飲み込むタイミングを逃したのか、くっと動きを止めた。私はその隙を逃すことなくバックステップで後方へと逃れる。
「ホロ……グラム?」
トランクからチラリと見えたそれは、映写機のような機械だった。
「あ、バレたか」
蒼崎橙子はイタズラがばれた子どものように呑気に言った。
なるほど、こういうことか。
概念だけの存在であることを隠すため、ホログラムによる仮の実態を作り、相手を騙す。
さすがだ、さすが封印指定魔術師。
この状況、自分達は何一つ有利になどなっていない。しかし、不利でもない。
だが、精神的な面では圧倒的にこちらが気おされている。
例え今、斬り抉る戦神の剣(フラガラック)があったとしても、この魔術師には決定打を与えることはできないだろう。
後ろを振り返る。
そこには先ほど投擲した短剣、正確には白と黒の双剣を構える士郎の姿があった。
しかしその顔色は決していいとは言えない。
あまりの緊張に忘れていたが、ここは彼女が張った結界の中だ。
少しずつとはいえ私たちの体力を確実にそぎ落としていく。
万事休すかと、眉間を冷たい汗が流れた。
ふと目線を上げると、絶望の中思考に暮れる私を見ながらつまらなさそうな蒼崎橙子がいる。
そういえばこいつ、追撃してこない?
私が思わず思案に暮れていた数秒間の間、なぜ追撃してこなかった?
それにこの目、先ほどの、戦おうとする意思がまったく感じられない。
まるでトランクのトリックがバレた時点で全て終ったかのようだ。
そんなはずは、ないのに。
また思考の海に飲み込まれそうになるのをぐっと堪えて青崎橙子を見据えると、なぜか眼鏡を着けてぼ~っとした顔の蒼崎燈子と目があった。
「ねぇ、衛宮君が作るご飯ってすごく美味しいって聞いたんだけどさ。ホント?」
間の抜けた目つきのまま、やはり間の抜けた質問をされた。
あっけに取られるなかすっと結界が消えるのを感じる。もうすでに空は闇に包まれていて、
汗びっしょりでへたりこむ私達と、涼しい顔でタバコに火を着けようとする蒼崎橙子が、
最高の人形師と呼ばれる魔術師がいた。
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